「ひと手間の先にある、鮨の記憶。」

img_0217.jpeg 仕込みの合間、店の静けさの中でふと考えることがあります。

一貫の鮨の向こうに、何が残るのだろうと。


ただ旨い、では足りない。

思わず黙ってしまうような、五感で味わう「間(ま)」のようなものを残したい。


例えば、塩を振るタイミング。

一秒早くても遅くても、味が変わる。

その瞬間、魚と自分とが向き合っている感覚があります。


白身の昆布締めは、朝の気温や湿度で〆時間が変わる。

“正解”はなく、指先と舌が頼り。

今日の魚はどう感じているか。問いかけるように手を入れていきます。


お客様が静かに頷いてくださる瞬間がある。

「言葉はいらない」と思えるような、そんな一貫ができたとき、

小さく安堵します。まだ、やっていけるなと。


最近は、海外からのご家族の来店も増えてきました。

小さなお子さまが、握りたての玉子を頬張って「おいしい!」と笑ってくれた日。

この仕事をしていて良かったと、素直に思えた夜でした。


一貫の中に、仕込みの時間、温度、呼吸、すべてが入っている。

誰にも気づかれないような「ひと手間」が、

いつかその方の“記憶に残る味”になるかもしれない。


そんな思いを胸に、今日も静かにカウンターに立っています。